大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(行コ)30号 判決

東京都文京区根津二丁目一五番一〇号

控訴人

金太圭

右訴訟代理人弁護士

安藤寿朗

松山正

有賀功

古波倉正偉

東京都台東区東上野五丁目五番一五号

被控訴人

下谷税務署長

飯田庄左衛門

右指定代理人

平田昭典

比嘉毅

須貝秀敏

和田清

軽部勝治

右選任代理人弁護士

小川英長

右当事者間の昭和五〇年(行コ)第三〇号所得税更正決定処分取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のように判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人が控訴人に対し昭和四二年三月三一日付でなした昭和四〇年分の所得税に関する更正処分(ただし、異議決定・審査裁決によりそれぞれ一部取り消された後のもの)か取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。との判決。

二、被控訴人

控訴棄却の判決

第二、当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(事実上の陳述)

一、控訴人

(1) 被控訴人が主張する控訴人のゴルフ部門及び喫茶部門の算出所得額はいわゆる推計課税方式により算出したもので、その所得金額の認定の不当なことはすでに述べたとおりであるが、右の算出所得額から控除すべき特別経費額及びその内訳は次のとおりであつて、その結果算出される所得金額は金六一〇万七三七三円となり、本件更正処分における所得金額金六四四万〇一三二円は前記所得金額を金三三万二七五九円を超えるので、同超過部分は違法として取消しを免がれない。

〈省略〉

(2) 減価償却費について

右表における各部門の減価償却費の内訳けは、別紙「控訴人主張の減価償却費の内訳表」のとおりであり、そのうち、各部門の「償却の対象となる購入価額」及び「改良費」算出の基礎は次のとおりである。

(イ) 償却の対償となる購入価額

(一) ゴルフ用店舗

ゴルフ用店舗は昭和三八年九月二三日に購入取得したが、その価額は土地建物をあわせて総額金三二六〇万円であるところ、各別の価額を算定しなかつたので、いまこれを各固定資産税課税評価額に照らして算出すると、昭和三八年度の建物評価額は金二一万五四〇〇円、昭和四四年度の土地評価額は金二〇一万六〇〇〇円である(昭和三八年度の土地評価額は東京都税務事務所から明らかにされなかつたから、やなを得ず昭和四四年度の評価額によつたものであり、昭和三八年度の土地の評価額は昭和四四年度のそれに比しより低額であることが明らかである。)から、建物購入価額は金三一四万六九一〇円(〈省略〉)となるところ、控訴人は、同店舗購人直後に大規模な改築を行ない、同店舗の九〇パーセントに相当する部分を取り毀わしたので、減価償却の対象となる価額は、右購入価額から取毀部分の価額を控除した金三一万四六九一円(〈省略〉)となる。

(二) 喫茶店ラタン用建物

喫茶店ラタンは昭和三八年七月二三日に購入取得したが、その価額は土地建物をあわせて総額金三七五〇万円であつたところ、各別の価額を算定しなかつたので、いまこれを各固定資産税課税評価額に照らして算出すると、昭和三八年度の建物評価額は金五四九万八六〇〇円、昭和四四年度の土地評価額は金八二二万七〇〇〇円である(土地の評価額につき昭和四四年度のそれによらざるをえなかつたのは、前記ゴルフ用店舗について述べたと同様である。)から、建物購入価額は金一五〇二万二八三七円(〈省略〉)となり、右の金額が減価償却の対象となる価額となる。

(ロ) 改良費

ゴルフ用店舗に関する減価償却の対象となる改良費(資本的支出)のうち、金二八二万〇一〇〇円は昭和三八年一二月一一日から昭和三九年一一月一〇日までに支出したもの、金一七万円は昭和四〇年三月二日及び同月一五日に支出したものである。

二、被控訴人

(1) 控訴人主張の前記(1)の算出所得金額から控除すべき特別経費額の内訳のうち「ゴルフ部門」の地代家賃額及び借入金利子額がその主張の額であることは認めるが、そのほかの事実は争う。

(2) 減価償却費について

控訴人主張の別紙「減価償却費の内訳表」のうち(一)のイのうち〈D〉償却率及び〈E〉当年中の供用期間の割合並びにロ及びハの各改良費に関する部分並びに(二)のうち〈D〉償却率及び〈E〉当年中の供用期間の割合並びにロの改良費に関する部分は争わないがその他の点は争う。なお、喫茶店部門の建物減価償却費については、同部門の特別経費のうち右以外の経費についてその支出を証すべき資料が存しなかつたので、同償却費を個別に計算しても特別経費額を算出できないので、同減価償却費を含めた特別経費の合計額を、売上金額に同業者の平均特別経費率三四・一八パーセントを乗じて金三二二万六七〇三円と計算すべきことはすでに述べたとおりである。

(イ) 償却の対象となる購入価額

(一) ゴルフ用店舗

控訴人はゴルフ用店舗の土地建物を総額金三二六〇万円で購入取得したと主張するけれども、その価額は金二五〇〇万円である。

(ⅰ) したがつて、右金二五〇〇万円から同建物の購入価額を算出するに、昭和三八年分相続税財産評価基準に基づき評価された価額は、建物につき金二一万五四〇〇円、土地につき金七二八万円であるから、その建物の購入価額は金七一万七五〇〇円(〈省略〉)となるところ、控訴人がその購入直後大規模改築のため九〇パーセントに相当する部分を取り毀わしたことはその主張のとおりであるので、減価償却の対象となる価額は、右購入価額から取毀部分の価額を控除した金七万一七五〇円(〈省略〉)となる。

(ⅱ) 仮に、控訴人主張の購入価額金三二六〇万円につき、右の方式により算出すると、減価償却の対象となる価額は金九万三五六二円(〈省略〉)となる。

(二) 喫茶店ラタン用建物

なお、控訴人は喫茶店ラタンの土地建物を総額金三七五〇万円で購入取得したと主張するけれども、その価額は金二五五〇万円である。

(ⅰ) したがつて、右金二五五〇万円から同建物の購入価額を算出するに、昭和三八年分相続税財産評価基準に基づき評価された価額は、建物につき金五四九万八六〇〇円、土地につき金一四五二万五〇〇〇円であるから、その建物の購入価額は金七〇〇万二三〇〇円(〈省略〉)となる。

(ⅱ) 仮に、控訴人主張の購入価額金三七五〇万円につき右の方式により算出すると金一〇二九万七五〇〇円(〈省略〉)となる。

(ロ) 残存価額、減価償却の基礎となる金額並びに償却費

右により各算出した建物取得価額に基づく残存価額(〈B〉)、減価償却の基礎となる金額(〈C〉)、並びに償却費(〈F〉)は次のとおりとなる。

〈省略〉

(ハ) 右により建物減価償却費合計はゴルフ部門につき金九万二八二五円又は金九万三四九二円、喫茶店部門につき金二四万七八六二円又は金二九万八二七八円となる。

(3) したがつて、特別経費合計額は、ゴルフ部門につき金六〇一万〇六〇〇円又は金六〇一万一二六八円となり、喫茶店部門につき金三二二万六七〇三円であるから、その所得金額は、別表「被控訴人主張の所得金額内訳表」のとおり、ゴルフ部門につき金七二七万一七一四円又は金七二七万一〇四六円、喫茶店部門につき金一三四万九九六六円となり、その合計額は本件更正処分における所得金額金六四四万〇一三二円を上回るから、これを取り消すべき違法はない。

(証拠関係)

一、控訴人

(1) 甲第九号及び第一〇号証、第一一号ないし第一三号証の各一、二、第一四号及び第一五号証、第一六号証の一、二、第一七号ないし第三六号証、第三七号証の一、二、第三八号ないし第四二号証、第四三号証の一、二、第四四号ないし第五〇号証、第五一号ないし第五三号証の各一、二、第五四号ないし第五六号証を提出した。

(2) 当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。

(3) 乙第二四号及び第二五号証の各一、二、第二六号証の一ないし三、第二九号ないし第三七号証、第三八号証の一、二の成立を認め、第二八号及び第二九号証の成立は不知と述べた。

二、被控訴人

(1) 乙第二四号及び第二五号証の各一、二、第二六号証の一ないし三、第二七号ないし第三七号証、第三八号証の一、二を提出した。

(2) 当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。

(3) 甲第一一号ないし第一三号証の各一、二、第一四号及び第一五号証の成立を認め、第九号及び第一〇号証、第一六号証の一、二、第一七号ないし第二六号証、第三七号証の一、二、第三八号ないし第四二号証、第四三号証の一、二、第四四号ないし第五〇号証、第五一号ないし第五三号証の各一、二、第五四号ないし第五六号証の成立は不知と述べた。

理由

一、算出所得金額について

当裁判所は、原判決書一八枚目表九行目中「金源潤」の下に「(ただし、後記措信しない部分を除く。)同市岡銀四郎」を、同一〇行目中「結果」の下に「(原審及び当審。ただし、後記措信しない部分を除く。)」を、同二〇枚目表末行中「認められ、」の下に「前掲」を、同二一枚目表一行目中「鈴木正美」の下に「、同市岡銀四郎」を加えるほか、原判決と同じ理由で、控訴人の昭和四〇年分の所得税に関し本件更正処分がなされたこと、被控訴人がその所得額を算出するにあたりいわゆる推計方法によつたことに合理性があること、したがつて、その算出所得金額は、ゴルフ用品販売関係につき金一三二八万二三一四円、喫茶店関係につき金四五七万六六六九円と認めるので、ここに原判決の理由(原判決書一八枚目表二行目から同二八枚目裏七行目まで。)を引用する。

二、特別経費額

(1)  ゴルフ用品販売関係 金六〇一万一二六八円

(イ)  雇人費 金八七万七〇〇〇円

成立に争いのない乙第一七号証の一ないし六、原審証人中川和夫の証言によると、控訴人が本件係争年度中に所得税法一八三条一項の規定により源泉徴収手続をした雇人の俸給等の支払合計額は金八七万七〇〇〇円と認められるので、同金額を右雇人費と認めるのが相当である。控訴人は、これが金額は金二七〇万円であると主張し、乙第二号証中にはこれに相応する金額の記載があり、原審における控訴人本人尋問の結果中にもこれに沿う部分があるけれども、乙第二号証は前示認定のようにその実額を記載したものと認められないのでこれをもつて右の認定を覆えすに足る証拠とすることはできないし、右控訴人本人の供述も前掲各証拠に照らして措信できず、そのほか右の認定を左右するに足る証拠もないので、控訴人のこの点に関する主張は採用できない。

(ロ)  減価償却費 金九万三四九三円

控訴人主張の別紙「減価償却費の内訳表」中(一)のイのうち〈D〉償却率及び〈E〉当年中の供用期間の割合並びにロ及びハの各改良費に関する償却費額は当事者間に争いがなく、したがつてゴルフ用品販売用店舗建物の償却費についてみるに

(ⅰ) 建物取得価額

同建物の購入価額については、その建物が同敷地とともに一括して売買代金額が定められたことは当事者間に争いがないところ、右代金額については当審における控訴人本人尋問の結果及びこれにより成立を認める甲第九号証によると金三二六〇万円と認められ、成立に争いのない乙第二七号証には右の代金額につき金二五〇〇万円との記載があるけれども、右控訴人本人尋問の結果によると乙第二七号証は売主の要求により甲第九号証とは別に作成したもので実際の代金額を記載したものではない事実が認められ、他に右の供述を左右するに足る証拠もないので、乙第二七号証をもつて右の代金額の認定を覆えすに足る証拠とすることはできないからこれが代金額は金三二六〇万円とすべきところ、これが金額に基づき建物の取得価額を算出するに、右代金額における建物と敷地との価額の割合はその購入した昭和三八年当時における各客観的な価額に応じてこれを按分して定めるのを相当とするところ、右の客観的な各価額として、被控訴人は相続税財産評価基準に基づく評価額によるべきであると主張し、控訴人は建物については同年度の、土地については同年度の評価額証明を都税事務所から受けることができなかつたので昭和四四年度の各固定資産税評価額によるべきであると主張するところ、同じ年度に購入した建物及び土地の価額を割りつけるものであるから、その評価額証明がえられないからといつて土地の価額につき右の年度と異つた年度の固定資産税評価額によるのは相当でなく、また土地の価額につき昭和三八年度における固定資産税評価額を認めるに足る証拠もないので、各価額につき同じ年度で評価できる相続税財産評価基準に基づく評価額によるのが相当というべく、前掲甲第九号証、成立に争いのない甲第一一号証の一、二、第一二号証の一、乙第二〇号証、第二九号ないし第三一号証によると、昭和三八年度における右評価額は、建物は金二一万五四〇〇円、土地は金七二八万円であると認められるから、これが各価額を基準にして建物の購入価額を算出すると金九三万五六二〇円となる(〈省略〉)ところ、控訴人がその購入直後大規模改築のため九〇パーセントに相当する部分を取り毀わしたことは当事者間に争いがないので、減価償却の対象となる建物取得価額(〈A〉)は右購入価額から取毀部分の価額を控除した金九万三五六二円(〈省略〉)となる。

(ⅱ) そして、残存価額(〈B〉)は右取得価額の一〇パーセントにあたる金額であることに当事者間に争いがないから金九、三五六円となるところ、償却の基礎となる金額(〈C〉)は金八万四二〇六円(〈A〉-〈B〉)となり、したがつて建物の償却費は金二、八六三円(〈C〉×〈D〉×〈E〉)となる。

右によると、減価償却費の合計額は金九万三四九三円(2863円+8万6295円+4.335円)となる。

(ハ)  地代家賃 金一七万五〇〇〇円

右につき当事者間に争いがない。

(ニ)  支払利子 金四八六万五七七五円

右につき当事者間に争いがない。

(2)  喫茶店関係 金三二二万六七〇三円

この点に関する当裁判所の判断は原判決理由説示と同じであるから、ここに原判決の理由(原判決書二九枚目裏四行目から同三〇枚目表一行目まで。)を引用する。なお、控訴人は特別経費として雇人費金三五四万円、建物減価償却費金三七万〇五七六円を主張するところ、雇人費に関する乙第三号証の一のうちの記載は前示認定のように実額を記載したものと認めるに十分でなく、他に右雇人費の支出を認めるに足る的確な証拠はなく、また減価償却費についてもこれだけをもつて特別経費とすることは相当ではないことは、前示特別経費の合計額を計算するにあたり適用した同業者特別経費率は同業者における建物の減価償却費、雇人費、借入金利子、地代家賃等の特別経費(公租公課、水道料、光熱費、旅費、通信費、広告宣伝費、接待交際費及び建物以外の減価償却費等のいわゆる一般経費と売上原価とを除いた固有の経費)の売上金額に対する割合の平均値であるから、この比率により計算した右特別経費の合計額には控訴人の喫茶店ラタン用建物にかかる減価償却費に相当する金額が推計額として算入されているもので、他方これにより算出された特別経費額には、借入金利子及び地代に相当する金額が含まれているところ、控訴人の事業にかかる借入金利子はゴルフ部門の特別経費に算入されており、また地代の支出はないから、右の推計により算出された特別経費は控訴人に有利に計算されていることとなる。

三、総所得金額

(1)  ゴルフ用品販売関係 金七二七万一〇四六円

(2)  喫茶店関係 金一三四万九九六六円

(3)  合計総所得金額 金八六二万一〇一二円

これは前記算出所得金額から右特別経費額を控除した金額である。控訴人の本件係争年分における総所得金額は右(1)及び(2)の合計額である。

四、控訴人の本件係争年分における総所得金額は右のように金八六二万一〇一二円であるが、被控訴人の本件更正処分における控訴人に対する認定総所得金額は金六四四万〇一三二円であつて、前示認定金額の範囲内であるから、本件更正処分にはこれを取り消すべき違法はない。

五、したがつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、これが取消しを求める本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判長裁判官 菅野啓蔵 裁判官 舘忠彦 裁判官 高林克己)

別紙

控訴人主張の減価償却の内訳表

(一) ゴルフ用店舗建物

〈省略〉

(二) 喫茶店ラタン用建物

〈省略〉

別紙

被控訴人主張の所得金額内訳表

〈省略〉

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例